大阪大学大学院医学系研究科 神経難病認知症探索治療学寄附講座

研究紹介

はじめに

神経変性疾患とは?

 神経変性疾患は、何らかの原因により脳や脊髄の神経細胞が徐々に失われ、物忘れが多くなったり(認知症)、手足がうまく動かせなくなったり(運動障害)する病気です。例えば、アルツハイマー病やパーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、ポリグルタミン病(ハンチントン病、脊髄小脳失調症)などがよく知られています。

 高齢化社会の到来とともに、神経変性疾患や認知症の患者さんの数は、世界的に大幅な増加傾向にあります。また、それに伴う労働生産性の損失や医療・介護費の増大などが大きな社会問題となっています。

 しかし、これらの疾患のほとんどは、まだ原因がよくわかっていない難病であり、残念ながらいずれも有効な治療法に乏しいのが現状です。そのため、神経変性疾患が「なぜ」「どのように」発症するのかという、疾患の発症機序を科学的に詳しく明らかにし、その基礎知見に基づいて診断法や治療法を開発することが強く求められています。

現在までにわかっていること

 多くの神経変性疾患では、タンパク質の異常な凝集と蓄積が疾患発症に深く関与すると考えられています。例えば、アルツハイマー病の原因となるアミロイドβやタウ、パーキンソン病の原因となるαシヌクレイン、筋萎縮性側索硬化症の原因となるTDP-43、ハンチントン病や脊髄小脳失調症の原因となるポリグルタミンなどといったタンパク質は、それぞれ疾患は異なりますが、いずれも構造が不安定なタンパク質であり、異常な構造へと変化(ミスフォールディング)して凝集する傾向が共通して認められます。実際、患者さんの脳や脊髄の神経細胞内(あるいは細胞外)に、これらのタンパク質の凝集物が蓄積することが知られています。これまでの研究から、この凝集過程において、原因タンパク質が細胞毒性を獲得したり、あるいは正常な細胞機能を障害したりすることで、神経細胞死が引き起こされるのではないかという、神経変性疾患に共通の発症メカニズムが提唱されています。

 また、最近、一部の脊髄小脳失調症や筋萎縮性側索硬化症などにおいて、異常な繰り返し配列を持つリピートRNAが細胞内で凝集したり、異常リピートRNAを鋳型とした全く新しい翻訳機構*1により異常なペプチドが産生され、細胞内に蓄積したりすることが報告され、神経変性疾患と異常RNAとの関連性も注目されています。

*1開始コドンATGを必要としない翻訳機構。リピート関連性非ATG依存性翻訳(Repeat-associated non-ATG translation=RAN翻訳)と呼ばれる。

私たちが進めている研究

 私たちは、神経変性疾患の一日も早い克服を目指し、「発症機序の解明」、「診断法・治療法の開発」を目的に研究を進めています。上述のように、タンパク質やRNAの凝集が神経変性疾患の発症に関わることが示唆されています。そこで私たちは、タンパク質やRNAがなぜ凝集し、どのように病気を引き起こすのかという、神経変性疾患に共通の発症機序の解明を行うとともに、この過程を止めたり遅らせたりすることで疾患を治療する方法の開発を進めています。現在、主に次のような研究を進めています。

(1)ポリグルタミン病に対する治療研究

・ ポリグルタミンタンパク質の凝集機序・毒性発揮機序の解明
・ ポリグルタミンタンパク質の凝集抑制による治療薬の開発
・ タンパク質の凝集・蓄積を抑える生体内防御システムの解明と治療薬開発

(2)タンパク質の異常凝集が原因となる他の疾患に対する治療研究

・ パーキンソン病/レビー小体型認知症の原因究明と治療法開発
・ 筋萎縮性側索硬化症/前頭側頭型認知症の原因究明と治療法開発

(3)異常RNAが原因となる神経変性疾患に対する治療研究

(4)神経変性疾患の発症や経過に及ぼすライフスタイル(運動、食事、睡眠など)の影響

(5)血液中エクソソームに着目した神経変性疾患バイオマーカー・診断法の開発

〇 研究内容について、こちらもご覧ください➢医学系研究科 教育研究活動紹介

研究室主催セミナー

神経難病治療学セミナー

 専門家の先生方にセミナーを行っていただいております。セミナーの様子はこちらです。

 共同研究

全国的な共同研究を展開

 国内外の多くの研究者の方々と共同で研究を進めています。特に、当研究室は、国内最大の神経変性疾患モデルショウジョウバエバンクを構築し、数多くの大学、研究機関から多数の研究者を受け入れるとともに、全国的な共同研究を展開しており、文字通り、ショウジョウバエを用いた変性疾患研究における国内ハブ拠点となっています。 (下記、共同研究先です)

【大阪大学内】
・神経内科学 ・精神医学 ・遺伝学 ・蛋白質研究所 ・産業科学研究所 ・薬学部
【国際】
・メイヨクリニック (アメリカ) ・ミシガン大学 (アメリカ) ・トロント小児病院 (カナダ) ・カハール研究所 (スペイン) ・蔚山科学技術大学校 (韓国)

【国内】
・東北大学 ・東京医科歯科大学 ・東京工業大学 ・東京農工大学 ・群馬大学 ・新潟大学 ・浜松医科大学 ・名古屋大学 ・岐阜薬科大学 ・福井大学 ・大阪府立大学 ・京都大学 ・京都府医科大学 ・京都工芸繊維大学 ・神戸大学 ・徳島大学 ・岡山大学 ・福岡大学 ・長崎大学 ・慶應義塾大学 ・国立精神・神経医療研究センター ・国立長寿医療研究センター ・理化学研究所 ・がん研究所 ・東京都医学総合研究所 ・神戸天然物化学株式会社

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