精神病理・精神療法研究室

研究内容

研究室の紹介 ─そもそも「精神疾患」とは何なのか?

「精神疾患と称される事態は、いかに現象し、いかに解決するのか?」─これが、当研究室の基本テーマです。

最近の精神医学領域の研究は、生物学的・自然科学的手法を用いた研究、例えば器質的要因に関する研究や、症状評価尺度を用いて症状を数値化し統計処理を加えて効果を判定するといった介入研究等が主流を占めています。また、それらの研究が依拠する診断分類に関しても、近年ではDSM等の操作的基準に拠ることが一般的となっています。

しかし、操作的基準は患者の内面に於いて生じた過程の結果としての諸症状の有無に基づいた約束事に過ぎず(勿論、「共通語」としての一定の意義は有しますが)、内面における(それ自体は不可視の)過程は不問に付されているため、例えばある症例を「統合失調症」と操作的に診断したとしても、それだけでは「そもそも『統合失調症』とは一体何なのか?」という問に答を出したことには決してなりません。

精神医学領域における昨今の風潮は、ともすると恰も人間の精神活動が全て具象的次元や数値に還元できるかのような、医学的唯物論とでも言うべき思想に席捲されているといった様相を呈しています。本来、何かを数値化した時点で、数値化不可能なものが捨象されているにも拘わらず、数値化の結果に過ぎないデータが「エビデンス」などと称され、まるで真実か何かでもあるかの如く喧伝されるようなケースもよく見受けられますが、それだけでは数値化・具象化できない本質に迫ることはできません。

精神医学が単なる脳神経内科学の範疇に収まらないのは、具象的次元や数値に還元しきれない「深み」を人間の精神が有しているからであり、その「深み」を愚直に追究することこそが、当研究室の担う役割です。

研究内容

研究手法としては、1例1例の経過に密着した症例研究を重視します。この立場は、「症例数(n数)を集めて何らかの介入を実施し、前後の症状を点数化して統計処理を施す」といった自然科学的な手法とは本来的に馴染まず、従って昨今の精神医学的研究では等閑視される傾向があります。しかし、自然科学的手法による研究においては、各症例は「個々の掛け替えのない人間」としてではなく、単なるデータとして扱われており、そこには人間疎外という問題を容易に見て取ることができます。個々の人間は、各々別個の存在である一方、「人間の普遍性」を個々に体現する存在でもあります。従って、ある症例に見出される過程は、人間一般にも生じうると見做されます。ここに症例研究の意義があり、それは人間理解の深化を目指すべき精神医学が決して疎かにしてはいけない観点です。

また、精神病理学をはじめ、精神分析学・心理学・哲学・宗教学等の人間の本質を探究する諸学問の知見も参照しつつ、時には既存の概念を時には見直し、時には新たな概念を創造することを通して精神医学の発展に寄与することを目指します。言わば、医学部の中でも最も文系的な研究室と言うことができましょう。

そして、最近20年間ほどの間にわが国において深刻な問題となっている自殺問題に関しても、単なる「鬱病対策」「生活支援」といった表面的な次元に留まることなく、その背景・深層にある「実存的危機」に着目した研究を行っています。

一方、当研究室は、人間の内界を探索する手段として、半世紀以上前からロールシャッハテスト(主に形式・構造解析)等の心理検査の研究を手掛けきたという歴史を有しており、その伝統は現在にも受け継がれています。ロールシャッハテストに関しては「片口法」「名大法」「阪大法」「包括システム」等々の様々な流派が存在しますが、本研究室はその「阪大法」の中心施設として、関西ロールシャッハ研究会の事務局も置かれています。

研究活動

当研究室においては、日々の1例1例を対象とした精神療法的な臨床実践それ自体が研究活動と密接に関連しています。診断に関しても、診断名を所与のものとして済ませるのではなく、「そのように診断名を付される臨床事態は、如何に、また何故に生じるのか?」を常に念頭に置き、表面的な診断よりも「見立て」を重視しながら、治療や研究に当たっています。

また、毎月第1・第3水曜日の夕方に、当研究室もしくは本学中之島センターにて研究会(症例検討・研究報告・文献講読等)を開催しておりますので、参加希望の方はご連絡下さい(但し、守秘義務の関係で、内容によっては学生さんにはご参加いただけない場合もあります)。