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取り組み

ロボット支援下手術

ロボット支援下手術とは?

 

 ダヴィンチ・サージカルシステム(Intuitive Surgical社製da Vinci Xi Surgical System)は、内視鏡下手術支援ロボットです。手術“支援”ロボットですので、ロボットが自動的に手術を行うわけではなく、患者さんのお腹にあけた小さな穴に手術器具や内視鏡を取り付けたロボットアームを挿入し、医師がサージョンコンソールと呼ばれる操作ボックスの中で内視鏡画像を見ながら手術操作を行います。

 

ロボット支援下手術の利点

 

高解像度三次元画像と拡大視効果

 従来の腹腔鏡手術では、術者は2次元の画像を見ながら手術操作を行っていましたが、ロボット支援下手術では3次元の画像が得られるため、開腹手術と同様、お腹の中の奥行きを感じながら手術を行うことができます。また、高画質カメラによる拡大視によって、細かな血管や神経、臓器の境界をより正確に把握することができます。

 

鉗子の関節機能と手ぶれ防止

 従来の腹腔鏡手術は鉗子と呼ばれる直線状の手術器具を用いており、鉗子は限られた動きしかできませんでした。しかし、ロボット支援下手術では鉗子に関節機能が付いており、人間の手首や指と同じように操作することが可能です。さらに手ぶれを全く生じないため、より緻密なリンパ節郭清消化管の縫合等において微細な手術操作をより正確に行うことができます。

 

   

  

 

ロボット支援下胃切除術の適応

 

 2018年4月より、胃がんに対するロボット支援下手術ついては、厳格な条件を満たす認定施設でのみ保険診療で実施することが認可されました。当院は、日本有数のロボット支援下胃切除術の実績を有しているため(2019年5月31日現在で計100例実施)、保険診療で行うことが認められています。これにより、当院ではいかなる病状の胃がんであっても、少ない経済的負担にてロボット支援下胃切除術を受けることができます。

 

 

  

 

腹腔鏡下手術

1)腹腔鏡下手術とは

 胃がんの患者さんが手術治療を受ける場合には、現在、みぞおちから臍のあたりまでの皮膚を切開して行う開腹手術が標準とされています。しかし近年では、図のように5mm~3cm程度の小さな創(きず)から、腹腔鏡や手術器具を挿入し、モニターに映し出されるお腹の中の画像を確認しながら行う腹腔鏡下手術が普及してきました。腹腔鏡下手術は開腹手術と比較して創が小さいため、整容性に優れるとともに術後の痛みが少なく、手術からの回復も早いと言われており、当科では積極的に取り組んでいます。

 

 

 従来の開腹手術(左)と比較し、腹腔鏡手術(中、右)では創が小さく、術後の痛みも軽度です。

 

 

実際はこのように、手術に携わる全員がモニターを見ながら手術操作を進めます。腹腔鏡手術の最大のメリットは,拡大視効果による,開腹手術より精緻なリンパ節郭清です.    

 

2) 腹腔鏡手術の適応と当科における成績

 日本内視鏡外科学会のガイドライン(2014年版)では、幽門側胃切除が適応となる早期胃がん(cStageI; 下記「胃がんとは」の項参照)に対して腹腔鏡手術を行うことは推奨できる(推奨度B)とされています。当科では、胃がんに対する腹腔鏡手術が保険収載された2002年以前(1997年)から導入しており、これまでに1000例以上の腹腔鏡下胃切除術を施行してきました。

 

(図)当科における胃がん切除における腹腔鏡下手術(ロボット支援下手術を含む)の割合の推移です。2014年までは3/4程度でしたが、2018年には93%とほぼすべての胃がん手術が腹腔鏡下に行えるようになりました。

 

3)当科における取り組み

 当科ではこれまで早期がんで培ってきた多数の経験を生かし、安全性を十分に担保できると考えられる場合には、胃全摘術、噴門側胃切除術など幽門側胃切除術以外の術式を行う症例や、進行がん症例に対しても出来るかぎり臨床研究として腹腔鏡手術を行っています。また、創をより小さくするための完全体腔内吻合法など、新たな手技の開発にも積極的に取り組んでいます。

(図)体腔内吻合の実際: これにより,最も大きな傷の大きさは4㎝以下となりました.

 

腹膜播種 微小転移の検出

 進行胃がんの再発形式として最も多いのが、お腹の中(胃の外)にがん細胞が拡がることによる腹膜播種です。このため、進行胃がんの治療成績を向上させるためには、腹膜播種に対して早期に正確な診断を行うとともに、効果的な治療法を開発することが求められています。

 腹膜播種とは、胃の内側から発生した胃がんが進行し胃の外側(漿膜側)に露出した場合に、胃からお腹の中にがん細胞が脱落し、腹部臓器を包んでいる薄い膜である腹膜に根を生やして増殖することで起こります。腹膜播種病変が増大した場合には、腸閉塞や腹水の原因となることがあり、肝臓や肺等の他の臓器への転移と同じように、手術のみによる治癒を期待することが難しい病態とされています。現行の胃癌治療ガイドラインでは、化学療法、放射線療法、緩和手術や対症療法など根治手術以外の治療が推奨されています。  

 

 このため、治療の開始前に腹膜播種を診断することが、患者さん個人に最適な治療を選択する上で非常に重要です。しかしながら、CT検査等の画像検査では小さな腹膜播種病変を同定することが難しいため、診断技術の進歩した今日でさえ事前に腹膜播種を診断できない場合が多くあります。このような課題を克服するため、最近では手術を行う前に全身麻酔下に腹腔鏡を用いた検査(審査腹腔鏡検査)を実施し、実際にお腹の中に播種病変がないかを確認することが増えてきました。当科では、審査腹腔鏡検査の診断能力を向上させるため検査の際に“5-アミノレブリン酸(5-ALA)”という薬剤を用いた“光線力学診断”を併せて行うことにより、診断精度を向上させる取り組みを開始しています。光線力学診断では、検査前に5-ALAを内服していただきます。5-ALAは体内でプロトポルフィリンⅨ(PpⅨ)という物質に代謝されがん細胞に蓄積しますが、PpⅨは特殊な青色の光を照射することにより赤色の光を発する(蛍光)という特徴を持っており、これを利用して腹膜播種病変を検出するという仕組みです。

 

図)がん細胞が光る仕組み


正常細胞内での5-ALAの代謝経路


がん細胞内での5-ALAの代謝経路

 

 本法はがん細胞の中の代謝の変化に着目した方法で、本来体内にある物質である5-ALAを投与するため、副作用が起こりにくい安全性の高い検査であると考えています。また、5-ALAは、脳外科の分野において既に保険適用された薬剤ですが、当科では胃がんを対象に臨床研究を開始し、微小病変の検出に役立つ診断法であるという感触を得ております。

 そのうえで、胃がんに対する新たな診断法として保険適応されることをめざし、現在医師主導治験*を実施しています。治験の結果、有効な検査であることが証明されれば、数年後には胃がんの腹膜播種を診断するための検査として広く活用されるようになると予想されます。患者さんにより適切な医療を提供するため、努力していきたいと考えています。

  *医師が自ら準備・運営・管理を行う治験の一種

 

 

左列:通常の腹腔鏡画像において検出できなかった病変部位

右列:光線力学診断を併用することにより病変を検出し病理学的検査にて腹膜播種の診断が確定した。

 

食道胃接合部がん

1、食道胃接合部がんとは

 食道胃接合部とは食道と胃がつながる部分のことで、がんの中心が食道胃接合部から上下2cm以内にある場合、食道がんや胃がんと区別し食道胃接合部がんと呼んでいます。肥満や逆流性食道炎が食道胃接合部がんの発生原因の一つであると言われており、日本では近年発症数が増えてきています。胸部に位置する食道と腹部に位置する胃の境界に発生するため胸部・腹部の両方にリンパ節転移を起こしやすいことが知られていますが、転移頻度の高いリンパ節部位や転移割合の正確なデータは得られておらず、食道胃接合部がんに対する適切な手術術式(食道や胃の切除範囲とリンパ節郭清の範囲)を定めることが外科領域の今後の大きな課題として現在注目を集めています。

2、当院での治療方針

 食道胃接合部がんに対する治療法には手術や抗がん剤による治療(化学療法)等ですが、早期がんの一部や手術ができないような進行がんを除けば、手術が第一選択の治療となります。手術では食道と胃の一部および食道と胃の周りのリンパ節を切除します。進行した食道胃接合部がんは、胸の上方(上・中縦隔)のリンパ節や、腹部の深いところにある大動脈周囲のリンパ節に転移することがあると報告されていますが、手術によってどの範囲のリンパ節を郭清するのが適切かということはまだ定まっていません。こういったことを明らかにするため、当科では現在日本食道学会と日本胃癌学会が合同で行っている臨床試験(食道胃接合部癌に対する縦隔リンパ節および大動脈周囲リンパ節の郭清効果を検討する介入研究)を実施しています。その中で現在行っている手術術式は以下の2つがあります。

 

 ① 食道亜全摘

 がんの病理組織型が食道がんに多いとされる扁平上皮癌の場合や、食道への浸潤距離が長い、または画像検査で上~中縦隔のリンパ節転移が疑われる場合には、胸部と腹部の食道および食道胃接合部付近の胃を切除します。さらに、がんの周囲のリンパ節(腹部リンパ節、下縦隔リンパ節)の郭清に加えて、上・中縦隔リンパ節の郭清も行います。再建には、通常は胃管を用いて後縦隔経路で挙上し、頸部で食道と吻合します。この手術方法では、図のように腹部の切開(開腹)に加えて右胸部の切開(右開胸)を行いますが、切除創を小さくするために、胸腔鏡や腹腔鏡をできるだけ使用するようにしています。

 

 ② 噴門側胃切除+下部食道切除

 がんの病理組織型が胃がんに多いとされる腺癌で、食道への浸潤距離が短く、画像検査で上~中縦隔のリンパ節転移が疑われない場合には、噴門側の胃を1/2~1/3切除し、食道は下部のみを経食道裂孔的に切除します。さらに、がんの周囲のリンパ節(下縦隔リンパ節、腹部リンパ節)を郭清します。再建には、残った胃もしくは小腸を挙上して、下縦隔内で食道と吻合します。この手術方法では、創(手術のきず)は腹部(開腹)のみとなりますが、当科では開腹せずに腹腔鏡下で行う手術を積極的に導入しています。

 

  

 

 

いずれの手術方法でも、腹部大動脈の周りのリンパ節の一部を切除することがあります。また、病気の進行度合に応じて、手術の前後に抗がん剤による治療(化学療法)を実施することがあります。

 

術前化学療法

1、術前化学療法とは

 進行胃がんに対する治療として胃癌治療ガイドラインに定められた治療は手術による胃の切除ですが、中には手術を行っても微小ながん細胞が残り、これが原因となって手術後に再発する場合があります。一方で、進行胃がんに対しては術後再発予防のために抗がん剤を内服することがガイドラインにおいて推奨されていますが、それだけでは再発が予防できないことも多く、術後は体力の消耗により強力な抗がん剤が使用できません。そこで、当科では、より進行した胃がんを対象に、更なる再発率の低下を目指して術前により強力な抗がん剤治療を行う術前化学療法を実施しています。

 

2、当科で実施している術前化学療法

 現在、術前化学療法として最も使用されることの多い抗がん剤はS-1(ティーエスワン)+シスプラチンですが、当科ではさらなる治療効果の強化を目指して3種類の抗がん剤を用いる術前化学療法を臨床試験として実施しています。

 ステージIIIの進行胃がんに対して、手術前にドセタキセル・オキサリプラチン・S-1の3つの抗がん剤を用いた治療を実施します。1日目にドセタキセル・オキサリプラチンを点滴し、S-1は2週間内服し1週間休みます。3週間を1コースとして3コース行った後に、手術を行います。副作用としては脱毛、全身倦怠感、下痢、嘔吐、手足の痺れなどが出る方がおられます。