上部消化管 食道

  • 検査
  • 各種治療法
  • 集学的治療

検査

上部消化管造影(UGI)

内視鏡検査が発達した今日では以前ほどは上部消化管造影(UGI)の重要性はいわれなくなりました。しかし外科領域では術前の病変の評価や、化学、放射線治療後の効果判定、さらに、術後に食事を再開する前の検査としては欠かせません。

 

1) 目的 食道がんの広がりや食道の形を非観血的に調べることです。

 

2) 方法 経口造影剤を飲み込み、X線で撮影を行います。体の向きを変え、多方向から病変及び、食道をとらえます。検査終了後に下剤を用いて、造影剤を排泄させます。(腸閉塞や腸穿孔の原因となることがあるため)

 

3) 読影 専門の医師により、造影剤の付着具合、しわのより方などから、病変の深さ、広がりを判定します。術後の食事再開前の検査としては、漏れ(縫合不全)がないことを確認します。

 

上部内視鏡検査

食道がんの確定診断には、内視鏡による生検組織検査が必要不可欠となっています。また、がん病変の局在(位置、方向)、深達度診断(がん病変の深さの診断)、色素内視鏡による精査も、治療方針決定に重要な役割を果たしております。

 

1)内視鏡検査(通常観察)

食道は気管・肺・心臓・椎骨などの重要な臓器と接しています。したがって、病変の局在(位置、方向)および、深達度診断(がん病変の深さの診断)によって、治療方針は大きく変わってきます。食道粘膜の隆起・陥凹の程度、発赤、血管網の変化に注目し、がん病変の局在を確認後、深達度診断に至ります(図1-2)。同時に、胃・十二指腸まで観察し、胃がん病変の合併の有無を確認します(図3-6)。

 

2) 色素内視鏡検査、狭帯域光観察(Narrow Band Imaging; NBI) 

食道がんの診断に主に使用されている色素にはヨードがあります。

 

正常の食道粘膜は、ヨードにより茶褐色に染色されますが、がん病変部は染色されません(図7~9)。この性質を利用し、がん病変の拡がり・壁内転移(図9-1/ -2:図9-1の食道内腔に突出した腫瘍は通常観察で確認することができますが、この患者さんには図9-2のように、さらに口側にヨード染色によって染まらない平坦な病変を認めたため両方の病変を同時に切除できるよう手術を計画しました)などを確認するために食道全長にわたって観察します。ヨード染色による大きな副作用はありませんが、胸部の不快感を自覚することがあります。このような症状を軽減するため、検査終了時には胃内に溜まったヨード液を吸引し、チオ硫酸ナトリウム液(中和液)を散布することがあります。

 

NBIは血液中のヘモグロビンに吸収されやすい狭帯域化された2つの波長(青色光:390-445nm/緑色光:530-550nm)の光で照らして観察するため、粘膜表層の毛細血管と粘膜微細模様が強調して表示されます。がんは自らを大きくするために血管を増やしてより多くの栄養分を取り込もうとする特性があるため、毛細血管が増え粘膜表面が込み入った模様に変化します。 図7-3や8-3では、腫瘍部分の粘膜が強調され色調がブラウンに変化(Brownish area)しています。図7-2や7-3を見ていただくと、ヨード染色で染まらない部分と一致していることがわかります。

 

これらの検査を用いることによって初めて存在が確認されるような表在がん(粘膜下層までにとどまるがん)もあり、より正確な病期診断を得ることが可能となります。

 

3) 生検組織採取

内視鏡より鉗子(かんし)を挿入し、がん病変より組織を採取します。採取した組織は、病理検査部で組織診断されます。組織検査の結果をもって、食道がんの確定診断がなされます。また、当科では生検組織による化学療法・放射線療法の効果予測についての検討も重ねています。

 

CT

食道がんの進行度診断のひとつとしてCTがあります。CTはX線を用いて体の断面像を撮影する検査です(図1および図2)。CT検査を治療前に行うことにより、主腫瘍の深達度、周辺臓器(大動脈、気管など)への浸潤の有無、リンパ節転移の有無、他臓器(肺、肝が多い)転移の有無などの診断を行います。これらの結果を元に治療法を決めていきます。そして、化学療法、放射線療法を行った場合は、治療後にもCT検査を行い、治療効果についての評価を行います。撮影は、病変をよりはっきりさせるために造影剤を腕より静脈注射しながら行います。特に、苦痛を伴う検査ではありません。

 

 

PET-CT

 

PET-CTとは 18F-FDG放射性同位元素(RI)を用いた画像検査で、ガリウムシンチグラフィー、骨シンチグラフィー等と同じRI検査と呼ばれる検査のひとつです。高信号の対消滅放射線を出す核種を用いるため、従来のシンチグラフィーと比較して解像度の高い鮮明な画像が得られるという特色を持っています。CTなどのレントゲン検査が体外からX線をあてて写真を撮るのに対し、この検査では放射線を出す性質を持った薬剤を投与し、体内から出てくる放射線を写真に撮るという点が違います。

 

 

 

なぜ腫瘍が“描出”されるの?に変更

 

悪性腫瘍は正常組織と比較して増殖が早く、そのためのエネルギーとしてより多くのブドウ糖を消費します。 このため、よりたくさんの18F-FDGが悪性腫瘍に取り込まれ、PETで描出されるのです。

 

どうしてPET-CT検査が必要なのですか?

 

“悪性腫瘍”の疑いがかかると実にいろいろな検査が必要になりますね・・・食道なら内視鏡、バリウム、CT・・・なぜそのうえPET-CTまで必要なのでしょう?

 

 

PET-CT検査では、頚部から会陰部まで、体幹部全体を撮影しています。従って、それまでにわかっている場所以外にどこか転移がないか、他の臓器に悪性病変の合併がないか等を一度に調べることが出来ます。

PET-CTでは写らないので悪性とは考えられません。だから再発ではなく肉芽でしょう”  このように、何かあるけどそれが良性なのか悪性なのか分からないというような場合、PET-CT検査が非常に役に立ちます。

治療前・・・

 

またこちらの患者さんは食道がんがリンパ節に転移しており、それがCT検査でもPET-CT検査でもよく描出されています。 このため手術前に転移の広がりを縮小する目的で化学療法(抗がん剤)を行いました。

さて治療後・・・

 

“CTではまだリンパ節の腫れ(転移)が残っているみたいだけど”
“PETでは写らなくなっているから抗がん剤はよく効いていると考えられます” 実際手術で摘出されたリンパ節は抗がん剤が良く効いてがん細胞は残っておらず、繊維の塊となっていました。

 

 

食道がんでは手術以外に抗がん剤や放射線療法を行うことも多いのですが、それらがどの程度効いたのかを正確に判定し、次の治療を決める上でもPET-CTは重要な検査のひとつです。

 

PET-CTって、どんなことするんですか?

 

では実際どのようにPET-CT検査が行われるのか見ていきましょう。

 

まず初めに18F-FDGを注射します。また検査直前に血糖値を測っておく必要があるため、この時同時に少量の採血も行います。 注射の後、1時間程待合室でお待ちいただきます。この間に18F-FDGが病変部に集まって行きます。 その後30-40分くらいかけて全身の撮影を行います。時間のかかる検査ですが、息をとめたり、体位変換をしたりする必要はありません。じっと寝ているだけです。以上で検査は終了です。

 

放射性同位元素を含む薬剤を用いるので被爆はありますが、急性放射線障害を起こすことはない線量です。また、もともと体内にあるブドウ糖に類似した薬を用いるので、注射に伴うアレルギー反応も全くない、とても安全な検査です。

 

各種治療法

 

内視鏡的粘膜切除

 

内視鏡的粘膜切除術

 

 がんは必ず食道の壁の内側にある粘膜上皮から発生しますが、がん細胞が粘膜内にとどまっているようなごく早期の食道がんではリンパ節転移がほとんどみられません。そのためきわめて早期のがんの多くは手術をしなくても内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection; EMR)によって根治が可能です。粘膜内のがんを内視鏡で確認しながらがんとその周囲の正常食道粘膜にループ状のワイヤー(スネア)をひっかけて電気で焼き切るのが本治療法ですが、全身麻酔をかけることもなく1時間程度で終わり、翌日から食事を摂ることが可能です。入院期間もおよそ1週間と短期間です。食道を大きく切除することなくほとんど元の状態で残るため、退院後も食事量が減少することがなく治療前と比べてQOL(生活の質)が低下することはありません。手術に比べると侵襲も小さく安全な治療法ですが、主な合併症として出血、穿孔(食道に穴があく)、狭窄(食道が狭くなる)があり、発生頻度はそれぞれ約2%です。また粘膜切除術では食道に潰瘍をつくることになるため、食事を摂るときに痛みがでることがありますが、 1~2週間で改善します。切除した病変は顕微鏡で詳細に検査します。万が一、がんが予測していたよりも食道壁の深くに浸潤していた場合には、食道の外のリンパ節にがんが転移している可能性があるため、手術や放射線治療などの追加の治療が必要になることもあります。当院では、消化器内科が中心となりこういった治療を実施しています。

 

 

内視鏡的粘膜下層剥離術

 

内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection; ESD)は、内視鏡下に病変周囲の粘膜下層に局注液を注入し、病変を十分に挙上させ、専用の高周波ナイフで挙上された病変周囲の粘膜および粘膜筋板を切開し、露出した病変下の粘膜下層を剥離して切除する治療法です。EMRと異なり、ナイフを用いて病変を切除するため、EMRでは切除困難な大型病変や瘢痕を伴う病変に対しても治療が可能です。ESDはEMRに比べ、大きな病変を切除することができますが、そのため手技が煩雑で時間がかかります。ESDの合併症はEMRに準じますが、切除範囲が大きいため、EMRに比べ術後狭窄を来す可能性が高いことが特徴です。

 

胸部食道がん手術(小開胸、胸腔鏡下手術)

従来、胸部食道がんの手術では右胸の皮膚を肋骨に沿って大きく切り、筋肉を切離し、肋骨も一部切除していましたが、当科では15年程前より皮膚の切開を10cmに縮小して筋肉を可能な限り切らずに温存する手術を行っています(図1)。 この手術では、小さな傷で筋肉も切らないことから術後の疼痛が軽くなります。また胸を大きく切ると、術後に胸郭の広がりが悪くなるため深呼吸がしにくくなり肺活量が低下しますが、小切開手術ではその影響が少なくなります。傷を小さくする代わりに、内視鏡(胸腔鏡)を胸腔内に入れて手術がやりやすくなるように補助的に使っています。傷は小さくなりますが、リンパ節郭清の程度などの手術の根治性が低下することはありません。

 最近では、さらに体への負担を小さくするため、VATS(Video-Assisted Thoracic Surgery)と呼ばれる胸腔鏡下食道亜全摘術を導入しています。VATSは、小切開の代わりに右胸に5か所の小さな傷をあけ、ビデオカメラで胸腔内を撮影しながら専用の鉗子を使って手術を行う方法です。小さな傷で従来と同様の手術が行えます。現在当科では、食道がん手術全体の30~40%でVATSを行っています。VATSの適応は、①他臓器浸潤がない、②術前に放射線治療を受けていない、③縦隔内に多数のリンパ節転移を認めない食道がん患者さんです。術前化学療法で効果を認めなかった進行食道がんの患者さんはVATSの適応外となります。胸腔鏡を使用することにより小さい構造も拡大して観察することができ、カメラの位置を調整することで従来の開胸手術では観察しにくい場所を詳細に観察することができます。また、手術に参加しているスタッフ全員で同じ画像を確認しながら手術ができることも胸腔鏡の利点です。VATSは従来の開胸手術と比べて低侵襲で、傷が小さいので術後の疼痛も軽く、早期離床が期待できます。

実際の胸腔鏡下手術の様子

食道胃接合部がん

 

1、食道胃接合部がんとは

 食道胃接合部とは食道と胃がつながる部分のことで、がんの中心が食道胃接合部から上下2cm以内にある場合、食道がんや胃がんと区別し食道胃接合部がんと呼んでいます。肥満や逆流性食道炎が食道胃接合部がんの発生原因の一つであると言われており、日本では近年発症数が増えてきています。胸部に位置する食道と腹部に位置する胃の境界に発生するため胸部・腹部の両方にリンパ節転移を起こしやすいことが知られていますが、転移頻度の高いリンパ節部位や転移割合の正確なデータは得られておらず、食道胃接合部がんに対する適切な手術術式(食道や胃の切除範囲とリンパ節郭清の範囲)を定めることが外科領域の今後の大きな課題として現在注目を集めています。

 

2、当院での治療方針

 

 食道胃接合部がんに対する治療法には手術や抗がん剤による治療(化学療法)等ですが、早期がんの一部や手術ができないような進行がん以外に対しては、手術が第一選択の治療となります。手術では食道と胃の一部および食道と胃の周りのリンパ節を切除します。進行した食道胃接合部がんは、病変から距離が離れた胸の上方(上・中縦隔)や、腹部の深いところにある大動脈周囲のリンパ節に転移することがあると報告されていますが、手術によってどの範囲のリンパ節を郭清するのが適切かということはまだ定まっていません。こういったことを明らかにするため、当科では現在日本食道学会と日本胃がん学会が合同で行っている臨床試験(食道胃接合部がんに対する縦隔リンパ節および大動脈周囲リンパ節の郭清効果を検討する介入研究)実施しています。その中で現在行っている手術術式は以下の2つがあります。

 

① 食道亜全摘

 

 がんの病理組織型が食道がんに多いとされる扁平上皮がんの場合や、食道への浸潤が長い、または画像検査で上~中縦隔のリンパ節転移が疑われる場合には、胸部と腹部の食道および食道胃接合部付近の胃を切除します。さらに、がんの周囲のリンパ節(腹部リンパ節、下縦隔リンパ節)の郭清に加えて、上・中縦隔リンパ節の郭清も行います。再建には、胃管を用いて後縦隔経路で挙上し、頸部で食道と吻合します。この手術方法では、図のように腹部の切開(開腹)に加えて右胸部の切開(右開胸)を行いますが、切除創を小さくするために、胸腔鏡や腹腔鏡をできるだけ使用するようにしています。

 

② 噴門側胃切除+下部食道切除

 

 がんの組織型が胃がんに多いとされる腺がんで、食道への浸潤が短く、画像検査で上~中縦隔のリンパ節転移が疑われない場合には、噴門側の胃を1/2~1/3切除し、食道は下部のみを経食道裂孔的に切除します。さらに、がんの周囲のリンパ節(下縦隔リンパ節、腹部リンパ節)を郭清します。再建には残った胃もしくは小腸を挙上して、下縦隔内で食道と吻合します。この手術方法では、創(手術のきず)は腹部(開腹)のみとなりますが、当科では開腹せずに腹腔鏡下で行う手術を積極的に導入しています。

 いずれの手術方法でも、大動脈の周りのリンパ節の一部を切除することがあります。また、病気の進行度合に応じて、手術の前後に抗がん剤による治療(化学療法)を実施することがあります。

 

化学療法

 

 食道がんは胃がんや大腸がんなど他の消化器がんに比べ、抗がん剤に対する感受性は高いといわれています。しかし、切除可能な進行食道がんに対する化学放射線併用療法によって顕微鏡レベルでがん細胞が完全に消失する率が20-40%であるのに比べると、化学療法のそれはわずか数%であり、まだまだ化学療法単独で根治が期待できる程には至っておりません。したがって、現時点では、化学療法は外科手術や放射線療法に加えて補助的治療として実施するか、あるいは外科治療の適応とならないような高度進行例に対する姑息的治療という位置付けで行われることがほとんどです。

 

1)術前補助化学療法(ネオアジュバント化学療法) 

 

 手術前に抗がん剤治療を行うことでがんを縮小させ、その後の手術療法と組み合わせることで治療効果を高める治療方法です。

 

 当科では、5-FU、シスプラチン(CDDP)、ドセタキセル(DTX)の3剤を併用したDCF療法を行っています(下図参照)。奏効率(CTなどの画像診断でがんが30%以上縮小する率)が約60-70%と非常に効果の高い治療法であり、ほとんどの進行がん症例に対して行っています。

 

  1日目 2日目 3日目 4日目 5日目
DTX        
CDDP        
5-FU

○ 抗がん剤投与

2)術後補助化学療法(アジュバント化学療法)

 

 手術で治癒切除はできたものの、ある程度の進行がんであり術後再発の可能性がある症例に対して、再発予防目的で術後に行われる抗がん剤治療のことです。当科では、切除標本の病理組織学的検査の結果をみて、リンパ節転移が多い症例には術後外来で抗がん剤投与を行っています。

 

3)高度進行食道がんに対する導入化学療法

 

 気管や大動脈、肺等の他臓器にがんが浸潤している場合や、広範囲にリンパ節転移がみられる場合等、高度進行がん症例で、手術を行うと非治癒切除(明らかにがんを取り残す手術)となってしまう可能性のある症例に対して、まず化学療法を行うことでがんを縮小させ、治癒切除(がんを取り残さない手術)が可能と判断された段階で手術を行うという治療を実施しています。上記1)と同様に原則DCF療法を行っており、後述の放射線療法と組み合わせることもあります。

 

放射線療法

 

 食道がんに対する放射線治療には、がんが治ることを期待する根治的放射線治療と、主にがんによる症状を緩和することを目的とする姑息的放射線治療があります。

 

1)根治的治療

 リンパ節転移がないと診断される早期がんのうち、内視鏡的粘膜切除では切除できないと判断される場合、手術によって治癒する可能性がある病変のうち高齢・呼吸器や循環器の合併症などの理由で手術を乗り切る体力がないと思われる場合、手術が勧められるものの患者さんが手術を望まない場合、等を対象に根治的放射線治療を実施します。治療は体外からの放射線照射を週5日、5~6週間連続して行います。一回の治療時間は1~2分程度の短時間で終わります。近年、放射線療法と化学療法(抗がん剤治療)を同時に行うほうが放射線療法単独の治療よりも効果が高いことが明らかとなり、がんの根治を目指す場合には放射線療法と化学療法を同時に併用して行うようにしています。

 

2)他臓器浸潤(T4)食道がんに対する放射線化学療法

 食道の周囲組織(大動脈、気管、気管支など)まで浸潤している食道がんのことをT4食道がんといいます。T4食道がんでは手術による治癒切除は不可能であり、まずは腫瘍を縮小させるための治療を行います。なかでも、化学療法と放射線療法を組み合わせた放射線化学療法では、腫瘍をより縮小させ、腫瘍の他臓器浸潤を解除することが期待できます。放射線化学療法を行った後の検査にて腫瘍が縮小し他臓器浸潤が解除されていることが確認できれば、手術療法による治癒切除を追加できる可能性があります。腫瘍が大きく残った場合には、引き続き放射線化学療法や化学療法を行います。放射線化学療法や化学療法を組み合わせた治療の後も腫瘍が残存している場合や、一旦治癒が得られた後に腫瘍が再燃した場合には、残った病変を切除することがあり、これをサルベージ手術といいます。しかし、サルベージ手術は手術の合併症などの危険性が比較的高くなります。

3)姑息的治療

 がんによる自覚症状、例えば、縦隔リンパ節再発による呼吸困難・骨転移による疼痛・脳転移による神経圧迫症状などを緩和して患者さんのQOL(生活の質)を改善することを目的とします。治療期間は患者さんの全身状態や症状緩和の程度によりますが、一般的には根治的治療の場合よりも短期間になります。化学療法を併用しない場合は外来通院での治療も可能です。 放射線治療の副作用はがん以外の正常組織にも放射線があたってしまうことが原因です。放射線があたる部位によって副作用が異なり、副作用が出現する時期も治療中から治療後早期におこる早期合併症と治療終了後数ヶ月から数年経過してからおこる晩期合併症があります。早期合併症としては、皮膚の発赤やひりひり感などの皮膚症状、食べ物を飲み込んだ時ののどの痛みや胸焼け感などの咽頭・食道炎症状、白血球減少・貧血などの血液障害、身体がだるいなどの全身倦怠感や発熱症状などがあります。一方、晩期合併症としては、胸に水がたまったり(胸水貯留)、心臓のまわりに水がたまったりする(心のう液貯留)など肺・心臓に影響が出ることがあります。また脊髄に放射線がかかりすぎると麻痺などの神経学的症状がでることがあります。しかし晩期の合併症についてはまだわかっていない点も多くこれからの課題とされています。

 

姑息治療(ステント治療・バイパス手術)

ステント治療

 

 がんそのものを治す治療ではなく、がんによる食道狭窄のため食事が摂れないときにメタリック製の網状またはZ状の筒を内視鏡的に食道狭窄部に留置して、食道を広げることで食事ができるようになることを目的として行う対症療法的な治療です。がんによって食道の壁に穴があいて、食事が外に漏れて肺炎などの炎症を起こしたときにその穴をふさぐ目的で行う場合もあります。内視鏡を使って行う治療のため侵襲が少なく、短期的なQOLの向上が期待できますが、食道に異物(ステント)を入れることによる長期的な影響は未だよくわかっていません。

 

バイパス手術

 

 がんそのものを治す治療ではなく、がんのある食道はそのまま残し、食事が通るための別ルートを作る手術です。対象となる患者さんはステント治療の場合とぼぼ同様で、がんによる食道狭窄のために食事が通らない場合やがんによって食道の壁に穴があいて食事が外にもれてしまう場合などです。一般的には胃を食道の代わりとして皮膚の下または胸骨の下を通して頚部まで挙上して頚部食道とつなぎますが、当科では小腸の一部を切除して食道の代わりとして用いることで胃を温存し、顕微鏡下に小腸の血管をつなぐ手術を行っており、良好な成績が得られています。

集学的治療

 

頸部食道がんに対する積極的喉頭温存術~声を残して、がんを治す~

 

 頸部食道がん(図1)は、これまでは食道と共に喉頭を切除する手術(喉頭合併切除)が通常行われてきました(図2)。喉頭とは、外から見たときのいわゆる喉仏のことで、同部は呼吸をするための気管の入り口であり、かつ、声を作り出す声帯のあるところです(図 1)。つまり、この喉頭を切除するということは、一生声を失うことを意味します。たとえ、喉頭を失っても、食道発声や最近では様々な発声の補助器具が開発されており、コミュニケーションの手段を失うわけではありませんが、QOL(quality of life):生活の質の点では大きなハンディキャップであることには違いありません。がん治療における手術の最大の役割はがんを残さずに切除することですが、我々はもう一歩進んで、声(喉頭)を残し、かつがんも治すことに取り組んでいます。

1. どうして声を残せないの・・?

 大きくは以下2つの理由があります。

 

(1)根治性(がん病巣の完全切除)の問題

 

 がんは見た目の広がりを越えて細胞レベルで広がっています。そのため、正常部分を少し含めてがんを完全に切除するように心がけます。この正常部分が安全域です。頸部食道がんではがんは食道の入り口に非常に近い部分にあるため、この安全域を確保して切除するとなると食道をその入り口と共に切除しなければなりません。しかし、食道の入り口は気管の入り口(喉頭)と一体化してのど(咽頭)につながっているため、図1の如く喉頭を切除せざるを得ないのです。

(2)術後合併症の問題

 

 上の項でも述べましたように、のどの奥には呼吸をするための気管の入り口(喉頭)と水分や食物を食べるための食道の入り口の2つがあり、多くの神経や筋肉の複雑で高度な調整のもとにむせることもなく呼吸し、食事を摂ることができています。しかし、手術では広範囲にこれらの神経や筋肉を剥離したり、引っ張ったりするため、術後の癒着や瘢痕化(硬くなり引きつれる)から、微妙な調整に狂いが生じ、単に喉頭を残すだけでは誤って気管に水分や食物が入り(これを誤嚥といいます)、食事摂取が思うようにできないばかりか、重篤な肺炎を発症してしまいます。この危険を回避するため、喉頭が切除され、食事の通り道と空気の通り道が別々に分けられる処置がされてきました(図2)。

 

2.“声を残して、がんを治す”ための我々の工夫

(1)根治性(がん病巣完全切除)の問題の克服

 

 術前に化学放射線療法を施行し、図3のようにがん病巣の縮小を図ります。こうすれば、切除ラインは同じでもがんが小さくなった分、安全域は広くなったことになります。さらに、がんを小さくして切除することで、根治性は高くなると期待されます。

 

 当科の成績:2010年から2014年には、化学放射線療法または化学療法後に手術を行った24例中11例に声を残す手術(喉頭温存術)(図3)が可能でした。

 

(2)術後QOL(quality of life):生活の質の問題の克服

 

 声を残す手術(喉頭温存術)ができた頸部食道がん患者の嚥下機能(物を飲み込むときののどの動き)をビデオ透視などを用いて詳細に解析し、その問題点を明らかにした上で、現在、術式に様々な工夫を行っています。

 

 成績:以前は喉頭温存術を施行しても術後に一時的に気管切開が必要となる症例は6割に達し、実際かなりの嚥下訓練を行った後、約1ヶ月後経たなければ食事摂取は困難でした。最近の症例では術式の改善を行い、簡単な練習を行うことで、嚥下時に注意は必要ですが術後10日前後で食事摂取が可能となっています。我々はこれからも頸部食道がんにおける根治性(がん病巣完全切除)とQOL(quality of life:生活の質)の維持という互いに相反する問題に積極的に取り組み、患者さんが安心して手術を受け、そして早期に社会復帰ができるよう、努力し続けるつもりです。

 

T4食道がんに対する集学的治療について

 

 手術単独による治癒切除が望めないような高度進行食道がん (T4食道がんや多数のリンパ節転移を認める食道がん)に対しては、手術、化学療法、放射線療法を組み合わせた集学的治療を行います。導入放射線化学療法に関しては前述のとおりです。合併切除を伴う手術についても当科では積極的に取り組んでいます。中でも、気管への浸潤を認める症例では、気管を合併切除し、呼吸のための気管の穴(気管孔)を胸部の皮膚に作り直すことがあります。

 

PET-CTを用いた術前化学療法効果判定

 

 18F-FDGの集積の程度は腫瘍の大きさに比例します。しかも、生きたがん細胞にしか取り込まれません。したがって、このPET検査をすれば治療後に生きたがん細胞がどれくらい残っているかがわかります(図2)。治療後に集積が消失した症例は極めて治療が奏効した症例で、残っている腫瘍は長径5mm以下でありがん細胞はいずれもわずかでした。まだ、完全にがん細胞が消えたかどうかまでの判定は無理ですが、治療後にPET検査で腫瘍への集積が消失した症例の術後経過は良好で長期生存が期待されます。 PET検査は、手術することなく組織学的な治療効果の予測(がん細胞の残っている大きさ)と、それに基づいた手術の適応決定を可能にすることから、極めて有用な検査法であると考えています。当院では、このようにPET-CT検査で治療効果を判定する取り組みを行っています。

リンパ節切除範囲の合理的縮小化

 食道がんは早い時期より頸部、胸部、腹部、いずれの領域のリンパ節にも転移を起こしうる悪性度の高い疾患であるため、徹底的にこの三つの領域のリンパ節を切除する拡大手術が行われてきました。しかし、重要なリンパ節の切除部位は食道や気管に添った周囲のリンパ節です。通常、頸部のリンパ節を切除するときは頸部の食道に添うリンパ節に加えて、両横の鎖骨の上付近のリンパ節(鎖骨の上にできるくぼみ部分にあるリンパ節)をも切除します(図1)。頸部の広範囲な手術操作は術後の嚥下機能(飲んだり食べたりする操作)に少なからず影響を与えることや、この鎖骨の上の部分には転移の無い症例も少なくないことから、頸部両側の追加リンパ節切除の適応を症例毎に検討し、手術侵襲の軽減と術後QOL(quality of life:生活の質)の向上に取り組んでいます。

1)どんな症例が頸部鎖骨上のリンパ節に転移がない・・?

 頸胸境界部の気管の両側には反回神経と呼ばれる声帯を動かす神経が通っていますが、この周囲のリンパ節(反回神経リンパ節)は転移の好発部位です(図 2)。頸部や頸部に近い部位に腫瘍のある食道がんを除けば、これまでの検討から、この反回神経リンパ節に転移がある症例は頸部鎖骨上のリンパ節に高率に転移を認めるのに対し、反回神経リンパ節に転移がなくて頸部鎖骨上のリンパ節に転移を認めた症例はほとんどありませんでした。(発表論文)Shiozaki H.、 M. Yano、 T. Tsujinaka、 et al. Dis. Esophagus 14 191-196、 2001

 

2)頸部鎖骨上リンパ節切除の省略の適応は・・・?

 術前診断で、頸部鎖骨上に転移を疑わせるリンパ節腫大のない胸部中・下部に腫瘍のある食道がんで、術中診断で反回神経リンパ節に転移を認めない症例は、頸部鎖骨上リンパ節の切除を省略しても必要十分と考えています。

 

3)術前のリンパ節転移診断は・・・?

 CTとFDG-PETを用いて、より精度の高い診断を行っています。このいずれの検査においても鎖骨上及び反回神経リンパ節に転移を認めないと判断された症例に対してさらに術中診断を実施しています。

 

4)頸部鎖骨上リンパ節切除の省略の利点は・・・?

 術後の飲み込む動作(嚥下運動)がすみやかで、誤嚥(飲み込んだものが気管に入る)も少なく、頸部のつっぱり感もないという利点があります。がんの手術においては、「残さず切除する」ことが大前提ですが、切除範囲を拡げればそれだけ患者さんに負担をかけることになります。したがって、必要十分な切除範囲を症例毎に検討し、手術侵襲の軽減と術後QOLの向上へ向けて取り組んでいきたいと考えています。

 

有効性の報告のある抗がん剤の積極的臨床応用

 

 日本では保険適応のしばりがあることから、海外では有効とされ積極的に使用されている抗がん剤でも自由には使用できない薬剤が存在します。抗がん剤や放射線を用いて様々な治療を受けてきたけれども期待するような効果が得られない(腫瘍が縮小しない)場合、または一旦は腫瘍が縮小したが再び大きくなってきたような場合、或いは手術で切除したが残念ながら再発した場合には、残された治療選択肢が無い状況に陥ってしまいます。しかし、効くかもしれない治療があるのに、みすみす見過ごす手はありません。我々は、海外で有効性が明らかな抗がん剤の積極的導入に取り組み、可能性を追求しています。 日本国内で現在食道がんに対して適応がとれている薬剤は以下の通りです。

 

 • 白金製剤:シスプラチン、ネダプラチン

 • 葉酸代謝拮抗剤:5-FU、TS-1

 • 抗がん性抗生物質:ブレオマイシン、ドキソルビシン

 • 植物アルカロイド:ビンデシン、ドセタキセル

 • 微小管脱重合阻害薬:パクリタキセル

 

食道がん診療におけるチームアプローチ

 

 当病棟では1997年から、食道疾患に対して外科医師・看護師・歯科医師・栄養士による「チームアプローチ」を行っています。  食道がんの手術は、病変を取り除き新たに食べ物の通る道を造設するもので食道の周囲には心臓や肺、多くの神経が通っており、消化器の手術の中でも難易度の高い手術の1つです。手術が成功しても新たにできた食べ物の通る道に慣れていただくのに長い時間を要し、退院時も食事だけでは十分に必要カロリーが取れない方が少なくありませんでした。特に、「嚥下」と呼ばれる食べ物の飲み込む動作がうまくできない方がたくさんおられました。この現状を改善するために「嚥下」の分野を専門としている歯科医師に直接指導を受け、また栄養士からは「嚥下」し易い食事の工夫により「嚥下困難食」を作成しました。そのことにより患者さんは術後食事摂取方法がより理解し易くなり、点滴や経腸栄養に頼ることなく退院していかれる方が多くなりました。外科医師、看護師だけでなく様々な専門分野が連携し、力を発揮する事が患者さんの1日も早い回復につながると考えてチーム医療を行うようになり、現在も活動しています。

当院における食道がんの治療方針について

 当院における食道がん治療方針については、毎週1回(水曜日)に「Cancer Board(キャンサーボード)」といって診断・治療に関わるあらゆる科(消化器外科、消化器内科、先進化学療法、放射線治療科など)の先生が集まり、主に初診で来られたすべての食道疾患の患者さんについての合同症例検討会を行います。ここでは個々の症例における画像診断や治療方針などについて各科と密に連携をとりながらベストな治療を行えるように毎週ディスカッションします。(実際に2014年度は計223人の食道新患患者さんについての症例検討を行いました)



各科との合同症例検討会「Cancer Board」(毎週水曜日)の様子

 

過去に当科で取り組んだ試みについて

 

 食道がんに対する術前化学療法施行時における経腸栄養剤投与による副作用抑制効果に関するランダム化比較試験

 

 進行食道がんに対しては手術の前に化学療法を行うことが標準的な治療とされていますが、化学療法中には好中球などの血球成分の減少や下痢といった副作用が多く発生することが報告されており、この克服が課題となっています。一方で、担がん患者に対する経腸栄養剤を活用した栄養管理は免疫賦活などの観点から重要であると以前より広く報告されています。しかしながら、経腸栄養剤が化学療法の副作用にもらたす影響についてはよくわかっていませんでした。そこで、私たちは化学療法中の栄養介入が副作用の軽減にもたらす効果について検討するため、術前化学療法中の患者さんに経腸栄養剤による栄養補給、持続静脈点滴による栄養補給のいずれかを受けていただく臨床試験を実施しました。その結果、免疫賦活に効果があるとされるω3系脂肪酸や下痢の予防に効果があるとされる大豆由来のタンパク質が多く含まれる経腸栄養ラコール®NFを内服した患者さんでは、好中球をはじめとする血球成分の減少等の副作用が大きく減少するということがわかりました。経腸栄養剤を内服した患者さんと持続静脈点滴を受けた患者さんに、化学療法の治療効果や化学療法終了時の栄養状態の点で差はありませんでした。

 

切除可能な進行食道がんに対する術前化学療法としてのFAPとDCF療法のランダム化比較試験

 

 切除可能な進行食道がんに対しては手術単独の治療や術後に抗がん剤治療を行うよりも、術前に抗がん剤治療(術前補助化学療法)を行う方がより効果的であることが過去の研究で明らかになっています。この化学療法には従来5-FU、ドキソルビシン、シスプラチンの3剤を併用投与するFAP療法が主に行われていました。しかし、FAP療法では十分な治療効果が得られない場合もあり、より高い治療効果が期待できる術前化学療法の開発が必要とされていました。当科では他臓器浸潤を認める進行食道がんを対象として、食道がんや他がんに対して治療効果が報告されてきている、ドセタキセル、シスプラチン、5-FUの3剤併用投与の新規治療(DCF療法)の臨床試験を行い、FAP療法で腫瘍の縮小効果がみられる割合が45%程度であるのに対して、DCF療法では58.8%であることを報告しました。引き続き、術前補助化学療法としての、DCF療法の有用性、安全性について研究することとし、切除可能な進行食道がんの患者さん160名を術前にFAP療法もしくはDCF療法を受けるグループに無作為に振り分け、各治療を行った患者さんが再発せずに生存した期間を比較することといたしました。本試験は2010年より開始され、現在試験登録が終了し、2年生存率がFAP療法で45.7%、DCF療法で66.3%とDCF療法の治療成績が良かったため、現在当科ではDCF療法を化学療法の標準的治療としています。

 

進行・再発食道がんに対する抗PD-1抗体による抗腫瘍免疫療法(第Ⅱ相試験)

 

 がん細胞を攻撃する細胞障害性T細胞(CTL)の働きを抑えている因子にはPD-1と呼ばれる細胞表面に存在するタンパク質があります。これに対する抗体は抑制されているCTLの働きを回復・増強し、がん細胞に対する攻撃力を高め、がんを小さくすると考えられます。固形がん患者さんを対象に実施された国内・海外の第Ⅰ相試験で非小細胞肺がん、悪性黒色腫、腎細胞がんにおいてがんの消失、縮小を認めた報告がされています。今回、進行・再発食道がんに対する抗PD-1抗体療法の第Ⅱ相試験を実施しました。

 

当科で現在行っている臨床試験について

 

大動脈または気管浸潤を認める胸部食道がんに対する導入療法のランダム化比較試験

 

 大動脈や気管などの隣接する臓器への浸潤をきたした進行胸部食道がん(深達度T4)に対しての標準的な治療は決定しておらず、一般的には放射線治療と抗がん剤投与とを併用した根治的化学放射線療法が行われてきました。一方で、化学放射線療法または化学療法を導入治療として行い切除可能と判断した時点で切除する、切除可能とならなければ導入に使用しなかったいずれかの治療をさらに行った後に切除するといった方法も有効であることが近年分かってきました。しかし化学療法と化学放射線療法のいずれを先行させた方がより良い治療効果が得られるかはまだ明らかにはなっておりません。

 

 われわれは他臓器浸潤を伴う食道がん患者さんを対象に、ドセタキセル、シスプラチン、5-FUを併用した化学療法(DCF療法)または、5-FU、シスプラチン(FP療法)の投与と放射線療法を併用する化学放射線療法のいずれかを先行して行い、切除可能と判断した時点で切除する方針とした時、どちらの導入治療から開始した方がより有効性、安全性が高いかを比較することとしました。対象患者さんは無作為にいずれかの治療群に分けることとし、治療後2年の生存率を比較することとしています。この試験にご協力いただければ、手術を目指した導入療法の初回治療として、化学療法(DCF療法)あるいは化学放射線療法を受けていただくこととなります。

切除可能進行食道がんに対する術前Docetaxel+CDDP+5FU併用化学療法 2 vs 3 サイクルのランダム化II相試験

 

 現在、進行食道がんに対して術前に化学療法を行うことが標準治療となっていますが、化学療法の効果に関わらず(1または)2サイクルの投与の後、手術を行っています。しかし、海外では術前に3サイクルの化学療法を行うことも多くあり、実際に何サイクル行う治療が最適かわかっていません。そこで、当科では前述の術前化学療法(DCF療法)を従来の2サイクルから3サイクルへと回数を増やして実施することにより、さらなる効果や治療成績の向上が見込めるのではないかと考え、取り組みを進めているところです。現在、患者さんに協力いただき、術前DCF療法を2サイクル行う場合と3サイクル行う場合の安全性や治療成績の比較を行うための臨床試験を大阪大学附属病院およびその関連施設にて実施しているところです。この試験にご協力いただければ、術前DCF療法2サイクルあるいは3サイクルのいずれかの治療を受けていただくこととなります。

 

 JCOG1109試験「臨床病期IB/II/III 食道がん(T4 を除く)に対する術前CF 療法/術前DCF 療法/術前CF-RT 療法の第III 相比較試験」

 

 これまでに行われた臨床試験(JCOG9907)の結果、深達度T4を除くステージⅡ、Ⅲの食道がんに対しては、化学療法(シスプラチン,5-FUによるCF療法)を実施した後に手術にて食道がんとその周囲のリンパ節を切除することが標準治療として実施されるようになりました。しかしながらこの治療を行った場合にも5年生存率は55%(特に深達度T3 では47%)と十分な成績ということはできません。このため、より進行した症例に対してはこれまで行ってきたCF療法では不十分でありより強力な術前治療を行う必要があると考えられます。そこで、微小転移の抑制効果をさらに上昇させるため、3種類の薬剤を使用した化学療法(DCF療法)と局所の腫瘍制御効果を高めるためのCF療法と放射線を組み合わせたCF-RT療法、および従来のCF療法の3アームの治療成績を比較する大規模な臨床試験がオールジャパンで実施されているところであり、当科もこの試験に参加協力しています。

 

 この試験は、食道がんに対する術前治療として、従来のCF療法に対して、新たな治療であるDCF療法およびCF療法に放射線照射を加えたCF-RT療法の有効性を検証するための試験として実施されています。試験にご協力いただければ、現在の標準治療であるCF療法か、DCF療法、あるいはDCF-RT療法のいずれかを受けていただくこととなります。

JCOG1409試験「臨床病期I/II/III食道がん(T4を除く)に対する胸腔鏡下手術と開胸手術のランダム化比較第III相試験」

 

 食道がんに対する手術の方法としては開胸手術が一般的ですが、最近では胸腔鏡下手術が急速に普及してきました。開胸手術では、肋骨の間に開胸器という肋骨を拡げる機械を入れ、医師の手が入るほどの広さを確保します。このため、術後も痛みが続くことや、呼吸機能が低下するなど、体に負担がかかることがあると言われています。一方で胸腔鏡下手術は胸部に数か所小さな穴(ポート)をあけ、棒状のカメラや鉗子(かんし)等の器具を挿入し、医師は小型カメラの映像をモニターで確認しながら手術を行います。利点としては、胸部の創(きず)が小さい、手術後の痛みが軽い、手術に伴う出血量が少ない、手術後の肺炎が少ない、肺活量の低下が少ないことなどが報告されています。また、カメラで拡大してみることができるため、より精密なリンパ節郭清等の手術操作が可能になると考えられています。

 

 しかしながら、胸腔鏡下手術はポートを通して手術を行うことにより、視野や操作が限定されることや、医師が直接臓器に触れることができないため、開胸手術よりも手術操作が難しく、手術時間が開胸手術よりも長くかかります。手術後の合併症も開胸手術より多かったとの報告もあります。

 

 このように、胸腔鏡下手術は最近になって行われるようになってきたこともあり、開胸手術と比べて長期的ながんの根治率が劣らないかどうか、明らかではありません。そこで、この二つの治療法を比較し、開胸手術に比べて胸腔鏡下手術の長期的な治療効果が変わらず、かつ安全に実施できるのかどうかを確認するための臨床試験がオールジャパンの体制で実施されているところであり、当科も参加しています。本臨床試験にご協力いただければ、開胸手術か胸腔鏡下手術のいずれかをランダムに受けていただくこととなります。

 

食道がん術前化学療法時の有害事象対策に関する検討~予防的抗生剤vs経腸栄養剤+シンバイオティクス~

 

 食道がんに対する術前DCF療法(5-フルオロウラシル+シスプラチン+ドセタキセル)は、前述のように高い治療効果が期待できる反面、骨髄抑制(白血球減少、好中球減少など)、消化器毒性(下痢、口内炎など)、発熱性好中球減少症などの副作用(有害事象)が高率に発生します。重篤な有害事象は化学療法の減量や中止による治療効果の低下や、免疫能・栄養状態の悪化につながる可能性があり、有害事象対策は非常に重要です。化学療法中の発熱性好中球減少症の発症予防に予防的抗生剤投与が有用であるという報告があり、近年、予防的抗生剤投与が行われるようになってきていますが、術前化学療法中の予防的抗生剤投与に関する検討はありません。一方で、大阪府立成人病センターの報告では、食道がんに対する術前FAP療法(5-フルオロウラシル+シスプラチン+アドリアマイシン)中に経腸栄養剤を投与することにより、白血球減少、好中球減少が減少するとされています。また、少数例での検討ですが、食道がんに対する術前DCF療法中のシンバイオティクス投与(プロバイオティクス(腸内細菌叢のバランスを改善することにより宿主に有益な作用をもたらす生きた微生物)とプレバイオティクス(消化管で分解・吸収されずに腸内の有用菌の栄養源となる物質)の併用)が、下痢や発熱性好中球減少症の軽減に有用であることも報告されています。本研究では食道がんにて術前DCF療法中に予防的抗生剤を内服してもらう方と経腸栄養剤およびシンバイオティクスを内服してもらう方の有害事象を比較して、どちらがより有害事象の軽減に有用であるかを明らかにすることを目的としています。我々は大阪府立成人病センターを含めた多施設にて共同で本研究を実施しています。本臨床試験にご協力いただければ、DCF療法を実施する際に、予防的抗生剤の内服か経腸栄養剤とシンバイオティクスの内服のいずれかをランダムに受けていただくこととなります。

 

当科で行っている先進的な取り組みについて

 

食道がん術後に発症した逆流性食道炎に対する内視鏡用縫合器(OVERSTITCH™(apollo社))を用いた新規治療法

 

 近年、食道がんに対する手術の質・周術期管理の進歩、また補助療法の導入・改良により、長期予後の得られる患者が増加してきています。一方で、術後多くの患者がなんらかの機能障害を起こしており、なかでも胃十二指腸内容物の逆流は、低栄養や体重減少だけでなく呼吸器症状(誤嚥性肺炎)をも合併し、予後にさえも影響する因子の1つと言われています。文献的には食道がん胃管再建後患者の約80%に逆流に関する症状あると報告されており、当科行ったアンケート調査においても171症例中136症例(79.5%)で逆流症状を認め、さらに同症例の胸部CTを確認すると、64症例(37.4%)に肺炎像を認めました。

 

 そこで内視鏡用小型縫合器(Apollo社 OVERSTITCH™)(図1)を使用し、内視鏡的に胃管の粘膜筋層を縫縮し胃管逆流防止弁(土手)を作成することで(図2)、胃十二指腸内容物の逆流を防止する方法を立案しました(図3)。この方法は、内服治療では難治性の胃十二指腸液逆流症、逆流性食道炎の患者様の、QOLの改善や誤嚥性肺炎の予防に有用であると考えられます。

当科で行っている治験について

 

食道がん患者を対象とした術後補助療法としてのがんペプチドワクチン第3相プラセボ対象比較試験

 

 塩野義製薬の「がんペプチドワクチンS-588410の食道がん患者を対象とした術後補助化学療法(手術後に再発を防ぐために使用する薬剤療法)の第3相試験」が開始しました。がんペプチドワクチンはがんに対する免疫療法の1つです。がん細胞が持つタンパク質の一部分(ペプチド)を人工的に合成したものとなり、それを投与して免疫細胞に覚えさせることでがん細胞に対する免疫を惹起(活性化)させることが期待できます。S-588410は5種類のペプチドワクチンから構成されており、塩野義製薬がオンコセラピー・サイエンスから導入した薬剤となります。

 

 この試験は、手術後にリンパ節転移が認められた患者に対してS-588410またはプラセボ(偽薬)のどちらかを使用して、効果を確認する試験となります。S-588410かプラセボを12週まで1週間に1回、それ以降2週間に1回使用し、最大94週間使用します

 

 主な適格性は以下の通りです。

 

・術前補助療法(手術前の薬剤治療または放射線療法)を実施した食道がんに対して根治的な手術を実施した方

・病理組織学的に(顕微鏡でリンパ組織を観察した結果)、リンパに節転が確認された方

・血液HLAのタイプがHLA-A*24:02の方(効果があると期待される方)

・20歳以上で、PSが0~1の方(全身状態が比較的良好な方)

・治験期間中に抗がん剤や分子標的薬など他のがんに対する治療薬使用する可能性がない方

 

進行・再発食道がんに対する抗PD-L1抗体による抗腫瘍免疫療法(第Ⅰ相試験)

 

人の体には、外部から侵入した細菌やウイルスなどの異物やがん細胞を認識して、これを除去する免疫機能が備わっています。がん細胞の表面上には特有のタンパク質(がん抗原)があり、がん抗原を認識したT細胞が活性化して、同じがん抗原をもつがん細胞を選択的に攻撃するようになります。しかし、がん患者さんの体の中の様々な要因によってこのような免疫機構からがん細胞が逃避する場合があることが解っています。その要因のひとつである「PD-L1」というタンパクは免疫を担うT細胞の表面上に存在する「PD-1」と結合することで免疫機能を低下させ、T細胞のもつがん細胞を攻撃する能力を低下させます。がん細胞にPD-L1が発現すると、T細胞の活性化が抑えられ、がん細胞がT細胞からの攻撃を回避することが可能になると考えられています(図①)。抗PD-L1抗体はPD-L1と特異的に結合するタンパク質(抗体)であり、抗PD-L1抗体がPD-L1と結合することによって、PD-1がPD-Lと結合するのを防ぎます。これにより、T細胞の活性化が維持され、がん細胞に対する攻撃力を高め、がんを小さくすると考えられます(図②)。現在、症例登録を行っております。

進行・再発食道がんに対する抗PD-1抗体による抗腫瘍免疫療法(第Ⅲ相試験)

 

 がん細胞を攻撃する細胞障害性T細胞(CTL)の働きを抑えている因子にはPD-1と呼ばれる細胞表面に存在するタンパク質があります。PD-1は、がん細胞の表面上にある「PD-L」というタンパク質と結合すると、CTLががん細胞を攻撃する能力を低下させます(図①)。PD-1と特異的に結合する抗PD-1抗体は抑制されているCTLの働きを回復・増強し、がん細胞に対する攻撃力を高め、がんを小さくすると考えられます(図②)。固形がん患者さんを対象に実施された国内・海外の第Ⅰ相試験で非小細胞肺がん、悪性黒色腫、腎細胞がんにおいてがんの消失、縮小を認めた報告がされています。2016年1月より進行・再発食道がんに対する抗PD-1抗体療法の第Ⅲ相試験を実施しています。

当院における食道がん手術件数

当院における食道がん手術件数の年次推移を示したグラフです。2010年からは年間90件以上の食道がん手術を手掛けております。

 

また、2015年に行った食道がん手術114例の内訳を示した表を示しますが、約80%は術前化学療法(+放射線療法)を施行しております。再建経路は主に後縦隔経路を採用しており、低侵襲である胸腔鏡補助下食道切除術は約30%に施行しております。

当院における食道がんの予後

当院における食道がんの進行度別の生存率を表したグラフです。

%は進行度別の5年生存率を示しております。

今後も手術、化学療法及び放射線療法等の集学的治療を実施し、治療成績の向上に努めたいと考えています。