下部消化管 大腸

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  • 療法
  • 当科の方針

A. 当科ならではの取り組みについて

大阪大学消化器外科では、大腸癌に対して外科治療を中心に種々のアプローチで取り組んでおり、より高い根治性を、より体への負担を少なく、提供していくことを基本方針としています。大腸癌は、結腸癌と直腸癌からなります。治療は、早期癌に対する大腸内視鏡による治療(お腹を切らない治療)から、手術(開腹、腹腔鏡)、遠隔転移を来たした進行・再発癌に対する抗がん剤治療、放射線治療などが行われます。また最近では免疫治療(保険未収載)なども注目されています。手術に関して当科は、基本的に全ての患者さんに腹腔鏡手術を適応としており、できるだけ少ないお腹の傷で手術を実施しています。結腸癌ではほとんどの患者さんは、臍だけの傷で手術を終えることができます。一方、直腸癌は骨盤内という狭い空間で周囲臓器(膀胱、肛門括約筋、神経、子宮、卵巣など)と近接しているため、結腸癌と比べて手術が難しく、再発率が高いという問題点があります。また 肛門括約筋が温存できない場合には、永久人工肛門が必要となります。この様な点を克服し、より精度の高い腹腔鏡手術を実施するため、直腸癌に対する術前化学療法、手術支援ロボット(保険未収載)の臨機応用を推進しています。さらに、通常根治が難しいと考えられている進行再発癌に対しても、抗がん剤治療や放射線治療と手術を組み合わせることにより、根治を求めた治療を行っています。

ナビゲーション手術

一般的にナビゲーションといってすぐに思いつくのはカーナビゲーションと思います。カーナビゲーションの利点は見知らぬ場所に行った時に迷うことなく安全に車の運転ができるようになることですが、手術においても同じようなことが言えます。ひとは顔つきや体型がそれぞれ違っているように、お腹の中も個人差があります。腸の長さや血管の走行などはかなり違う部分もあります。

私たちのグループでは2000年からCTスキャンとPET-CTの2つの画像を、コンピュータグラフィックを用いて融合させた3D画像を作っています。詳しいことは検査の章を参考にしてください。

この画像を用いて手術前に詳細な手術計画を立てます。さらに手術中もその画像を用いて血管の位置を確認することによって安全で確実な手術を行うことができます (PET-CT colonographyの項を参照してください) 。

単孔式手術

大腸がんでは患者さんの体に“優しい手術”として腹腔鏡手術が2002年に日本で保険適応となり、今では開腹手術とほぼ同等の成績であることが証明され標準的な術式になってきています。

私たちはその“優しい”の部分をもっと進めたいとの考え方から、単孔式手術を2008年から行なっています。通常の腹腔鏡手術はおへそとその周囲に4箇所ほど手術のために傷がつくのですが、単孔式ではおへそのみになります。ですのでこの手術は術後の疼痛が少ないことと整容性に優れていることがメリットです。“本当に大腸がんの手術を受けたのですか?”と周りに言われるぐらい傷が目立たなくなる場合もあります。私たちは難易度の低い手術から徐々にノウハウを蓄積させ進行がんにも適応できるようになってきています。ただし手術で一番大切なことは安全性と確実性です。もちろん病状や病変の位置によっては単孔式手術が無理な場合もあります。

そのような場合も可能であれば従来の腹腔鏡手術より傷の少ない手術を行うようにしています。

単孔式手術は通常の腹腔鏡手術よりも使用できる手が限られるため、解剖学的な位置関係を十分に理解して手術をする必要性があります。ここでも私たちが行っているナビゲーション画像が非常に役に立ちます。

私たちは色々な工夫や技術を用いてできる限り“体に優しい手術”を目指しています。 

 

直腸癌に対するロボット手術

(da Vinci Si サージカルシステム)

ロボット支援下手術とは

 大腸癌の中でも直腸癌は結腸癌に比べて、腹部から最も遠く狭い場所あります。したがって、通常の結腸癌に比べ、直腸癌の手術は開腹手術でも腹腔鏡手術でも難しくなります。また直腸に隣接する前立腺の手術も直腸手術同様、臓器の位置的に手術は困難とされています。しかし、前立腺癌に対してはロボット手術が縫合手技の安定性や術後の排尿機能障害に関する有用性から保険適応になっております。一方、直腸癌に対してのロボット手術はまだ保険適応ではなく、現段階では自費診療で行われております。

 ロボット手術とは低侵襲な腹腔鏡手術の精度をさらに上げる最先端の手術支援ロボット「da Vinci Si」(Intuitive Surgical社)を用いた手術です。体内を3次元の立体映像で鮮明に見ることができ、手ぶれが全くなく、自由自在に動くロボットの手先を使用することにより、従来の腹腔鏡手術より安全で緻密な手術が可能となります。当科ではロボットの利点を生かし、肛門温存に加え、肛門機能、排尿機能、性機能温存を目指しています。

ロボット手術の特徴

・手振れがなく安定した高解像度3D画像

通常の腹腔鏡手術は2D画像であるため、奥行きがわかりにくく遠近感がつかめないという欠点や助手がカメラを持つため、多少なりともの手ぶれが存在します。一方、ロボット画像は三次元画像のために立体視が可能で空間認知に優れている(例えば、術中出血し止血処置が必要な時、出血点に最短距離で到達可能となることや、縫合の際に糸の端がすぐに取りに行けるなど)たり、手振れのない安定した画像の中で手術が可能です。

・ロボット手術の手振のない多彩な鉗子の先の可動域

通常の腹腔鏡手術で使用する鉗子は可動域が制限されているのに対し、ロボットの鉗子の先は自由度の高い多関節機能を有し、自在に動かすことができます。

通常の腹腔鏡手術で使用する鉗子の先の可動域

ロボットの手振のない多彩な可動域

■7自由度

スケーリング機能による精緻で自然な操作感

直腸癌に対するロボット支援下手術の利点

消化器手術領域において直腸癌手術は深くて狭い骨盤腔の中での手術操作を要求されます。特に肛門に近い直腸癌手術は難易度も高く、永久人工肛門を余儀なくされる場合や術後の排尿機能障害や性機能障害が生じることがあります。

 直腸癌に対するロボット支援下手術は、通常の腹腔鏡手術に比べ、上記特徴で説明したように手ぶれのない安定した3D映像、骨盤内の制限された術野でも自由度の高い多関節機能、スケーリングによる緻細で自然な操作が可能といった利点があります。そのため、肛門に近い直腸癌や高度の肥満といった手術が困難な患者様の手術操作がより安全、簡便となります。また、腫瘍学的にも機能的にも有用と考えられています。すでに50名以上の患者様がロボット手術を受けられ、良好な経過となっています。

直腸癌に対するロボット支援下手術を希望される方へ

 現在、ロボット手術は消化器系の癌では臨床研究として行っており、直腸癌に対しては骨盤が狭い場合や神経機能の温存に役に立つ可能性があるため試験的に行っており、まだ保険収載されていません。そのため自費診療で行っていますが、校費診療(当院が治療費の一部を負担する制度)を適応することにより、各制度の条件を満たす患者さんは実際よりも少ない経済的負担にて治療を受けることが可能となっています。ロボット手術を希望される患者様や一度話を聞いてみたいという患者様は、是非一度ご相談ください。

直腸左壁の剥離

直腸右壁の剥離

下部進行直腸がんの骨盤内リンパ節に対する低侵襲手術(腹腔鏡下側方リンパ節郭清)

 肛門に近い下部直腸がんは他の部位の大腸がんと同様に縦方向のリンパ節に転移をするだけでなく、直腸の横方向のリンパ節 (骨盤の側壁にあるリンパ節) に転移しやすいという特徴があり、そこも一緒に取ることがガイドラインで推奨されています。そのため下部直腸癌のリンパ節郭清はその他の部位の大腸癌と同様にリンパ郭清を行うとともに骨盤腔のリンパ節郭清(側方郭清)を行います。当施設では直腸癌の深達度(腫瘍の深さ)が固有筋層を超えるもの、またはCT検査、MRI検査、PET-CT検査などでリンパ節転移を疑うものを対象にして側方郭清を行っています。なお、この側方郭清の際にも腹腔鏡を用いることにより出血が少なく、温存する神経・血管・臓器を傷つけることなく手術を行っています。

また、大腸癌のなかで下部直腸癌の治療成績が最も悪いと言われています。この治療成績を向上させるために当科では手術の前に化学療法を行うことによりがん細胞を極力死滅させた後に手術で病巣を取り除き、手術の後にもう一度化学療法を行いがん細胞のとり残しのないようにしています。このように手術の前の化学療法と腹腔鏡を用いた側方郭清により、下部直腸癌の治療成績の向上のために尽力しています。

拡大手術と進行再発大腸癌への治療戦略

再発大腸癌の外科治療

大腸がんの手術後の再発は時として患者さんの生活の質 (Quality Of Life; QOL) を大きく損ないます。しかしながら、根治を目指すのは比較的難しく、様々な治療法を組み合わせる必要があります。

再発大腸がんの治療法には,手術療法,全身化学療法,動注化学療法,熱凝固療法,放射線療法や重粒子線療法などがあります。手術療法は、治癒しうる可能性が他の治療法に比べて高いと言われています。しかし、特に直腸がんの局所再発の場合は、手術が大規模になることが多く、身体に対するダメージが大きいため、期待される予後,合併症,治療後の QOL などのさまざまな因子を考慮し,十分なインフォームド・コンセントのもとに選択する必要があります。当科では、治癒切除を目指すことのできる患者さんに対して、今までの経験をもとに、他の多くの診療科・グループと共同して積極的に治療を行っています。

肝転移

肝転移の治療には、肝切除 (手術)、全身化学療法、肝動注療法、および熱凝固療法があります。根治切除が可能な場合は、肝切除が推奨されています。ただし、手術から受けるダメージに十分な体力があり、なおかつ病巣が全て取りきれる場合にのみ適応となります。当院では、肝胆膵・移植グループと共同して、肝切除を行います。肝切除の方法は系統的切除と部分切除がありますが、当院では肝臓をできるだけ温存しようという思いから、基本的には部分切除を選択しています。また、「病巣が全て取りきれる」という判定を行うのは、難しく、判断を間違えれば、せっかく手術で取りきれても、すぐにまた再発してしまうことがあります。そのため、当院では1回の精密検査で判断するのではなく、しばらくの間、消化器癌先進化学療法グループと共同して、化学療法を行いながら、再度精密検査を行うなどの工夫を行っています。

 

大腸癌肝転移再発に対する肝切除

当院では肝胆膵・移植グループと共同して積極的に根治を目指しています。

 

 

 

 

肺転移

肺転移の治療には、肺切除と化学療法があります。当院では呼吸器外科と共同して、肺転移巣の切除が可能であれば、肺切除を考慮します。肝転移と同様、慎重に手術前の判定を行ってから外科切除を行うことになります。

局所再発

大腸がんとくに、直腸がんの術後再発のうち、局所再発は比較的多い再発形式です。直腸癌局所再発には吻合部再発と骨盤内再発があります。いずれにしても、骨盤内は大きな血管や神経が通っている骨盤、膀胱および前立腺 (女性であれば子宮や膣) が近接しているため、手術療法を行う場合は、非常に身体に対するダメージが大きな手術となります。そのため手術を行うかどうか判定するときには、再発巣の進展範囲を画像診断にて十分に評価し,再発形式や症状,身体的所見なども参考にして,完全切除が期待できる症例にのみ切除を考慮することが推奨されています。

直腸がん局所再発のうち,吻合部再発や前方の再発では膀胱や前立腺、女性では子宮や膣を同時切除することにより完全切除が期待できることが多いです。後方の再発では、完全切除のためには骨を削ることが必要になることがあり、手術に耐えうる体力があるかを十分考慮したうえで切除を行うかどうかを判定することになります。当院では、泌尿器科、産婦人科や整形外科と共同して積極的に手術を行っています。残念ながら、完全切除が期待できない場合は、放射線療法と全身化学療法の単独あるいは併用療法を考慮することになります。

直腸がん局所再発に対する骨盤内臓全摘術・仙骨合併切除術

非常に大規模な手術です。泌尿器科、整形外科、場合によっては形成外科と共同して手術を行います。

結腸癌の各ステージ別無再発生存率および生存率

直腸癌の各ステージ別無再発生存率および生存率

B.大腸癌総論(大腸がんとは)

大腸とは

大腸は、小腸に続く1.5~2mほどの長さの管腔臓器です。消化管の中で最後の部位を占め、水分や一部の栄養素を吸収して便を作る働きをします。大腸は大きく結腸と直腸に分けられ、さらに図のように分類されています。(出典:大腸癌取り扱い規約第8版)。

大腸がんとは

大腸がんとは、正常な粘膜や腺腫などの良性腫瘍が悪化することで発生します。症状としては、腹痛、腹部膨満感、血便、便通異常、貧血などが多く認められます。高齢の方に発生しやすく、男性のほうがやや多く発生します。発生部位としては直腸、S状結腸に多く発生します。日本において、大腸がんによる死亡数は男女ともに年々増加しており、2013年の癌による死亡数では男性では肺癌、胃癌についで第3位、女性では第1位となっています。 

(出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」)

<壁深達度(T因子)>

 大腸は内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜の5層で構成されています。 

(出典:大腸癌研究会 患者さんのための大腸癌治療ガイドライン 2014年版)

大腸がんは大腸の粘膜の表面から発生し、増殖し大きくなるにつれて腸の壁を破壊しながら外側に侵入していきます。そのような癌の広がり方を浸潤といい、どのぐらい外側まで浸潤しているかを示すものが壁深達度となり、以下のように規定されています。

大腸癌の壁深達度(T因子)

Tis 癌が粘膜内にとどまり、粘膜下層に及んでいない
T1a 癌が粘膜下層にとどまり、浸潤距離が1000μm未満である
T1b 癌が粘膜下層にとどまり、浸潤距離が1000μm以上であるが固有筋層に及んでいない
T2 癌が固有筋層まで浸潤し、これを越えていない
T3 癌が固有筋層を越えて浸潤している
T4a 癌が漿膜表面に露出している
T4b 癌が直接他臓器に浸潤している

<転移形式>

転移とは,最初に癌が発生したところから離れた場所に飛び火して増殖することです。最初に癌が発生した部位を原発巣,飛び火した部位を転移巣といいます。

大腸癌の転移には,リンパ行性転移,血行性転移,腹膜播種があります。

1.リンパ節転移(N因子)

一般的に、大腸癌が進行するとリンパ管に侵入するようになります。リンパ管に侵入した癌細胞は、途中のリンパ節に流れ着き増殖します。これをリンパ行性転移といいます。リンパ節転移の仕方には一定の規則性があり、流れに沿って、近くから遠くのリンパ節(腸管傍➡中間➡主リンパ節)に広がっていきます。リンパ節転移は、大腸癌取り扱い規約により下表のように規定されています。

大腸癌のリンパ節転移(N因子)

N0 リンパ節転移を認めない
N1 腸管傍リンパ節と中間リンパ節の転移総数が3個以下
N2 腸管傍リンパ節と中間リンパ節の転移総数が4個以上
N3 主リンパ節に転移を認める。
下部直腸癌では側方リンパ節に転移を認める

2.肝転移

 癌細胞が腸の細血管(静脈)に侵入し、大腸から離れた臓器に流れつき増殖する事を血行性転移と言います。大腸からの血流はまず肝臓に集まる事から、大腸癌で最も血行性転移の頻度が多い臓器が肝臓です。肝転移があれば遠隔転移となりますが、肝転移は手術加療によって取り除ける可能性があります。肝臓への転移の有無、個数、大きさによって、以下のように規定されています。

大腸癌の肝転移

H0 肝転移を認めない
H1 肝転移巣4個以下かつ最大径が5cm以下
H2 H1、H3以外
H3 肝転移巣5個以上かつ最大径が5cmを超える

3.肺転移

 肝臓の次に血行性転移が多いのが肺になります。肺転移も遠隔転移となりますが手術によって取り除ける場合もあります。肺への転移の有無、個数によって以下のように規定されています。

大腸癌の肺転移

PUL0 肺転移を認めない
PUL1 肺転移が2個以下、または片側に3個以上
PUL2 肺転移が両側に3個以上、または癌性リンパ管炎、癌性胸膜炎、肺門部、縦隔リンパ節転移を認める

4.その他の転移形式

 大腸癌の転移形式にはリンパ行性転移や血行性転移のほかに腹膜播種があります。また、肝と肺以外の血行性転移として、骨、脳、副腎などの臓器に転移することがあります。腹膜播種の転移は以下のように規定されております。

大腸癌の腹膜転移

P0 腹膜転移を認めない
P1 近接腹膜にのみ播種性転移を認める
P2 遠隔腹膜に少数の播種性転移を認める
P3 遠隔腹膜に多数の播種性転移を認める

<遠隔転移とは>

領域リンパ節転移以外のリンパ行性転移、血行性転移、腹膜播種転移はすべて遠隔転移と規定されています。

大腸癌の遠隔転移(M因子)

M0 遠隔転移を認めない
M1 遠隔転移を認める
M1a 1臓器に遠隔転移を認める
M1b 2臓器以上に遠隔転移を認める

大腸癌取扱い規約による進行度(Stage)分類は、壁深達度(T因子)、リンパ節転移(N因子)、遠隔転移(M因子)の程度で決まり、これら3要素を組み合わせてStage0、I、II、IIIa、IIIb、IVの6段階に分類されます。以下のようにStageが決まっています。

大腸癌の進行度分類(Stage)

Stage 壁深達度 リンパ節転移 遠隔転移
0 Tis N0 M0
T1a,T1b,T2 N0 M0
T3,T4a,T4b N0 M0
Ⅲa Tに関係なし N1 M0
Ⅲb N2、N3 M0
Nに関係なし M1以上

C.検査について

大腸内視鏡検査

スコープの先端にCCDを搭載した電子スコープを肛門から挿入して大腸内を観察します。正常とは異なる部位が見つかれば、色素をふりかけて病変部を際立たせて観察したり(色素内視鏡)、顕微鏡での検査のために細胞の一部を採取(内視鏡下生検)することが可能で、早期がんの診断の一助となります。また、進行がんに対しても、大きさ・形状などを詳細に観察することができるため、深達度診断に非常に有用です。

さらに、ポリープや早期がんなら内視鏡で治療することも可能です(内視鏡的粘膜仮想剥離術(ESD)、内視鏡的粘膜切開術(EMR)、内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー))。

 

・早期がん

通常観察のみでは評価困難な腫瘍でも、色素散布によって詳細な観察が可能となります。治療方針の決定に重要な情報を得ることができます。

・進行がん

進行がんに対しては、腫瘍の大きさ、形状や固定感等を評価し、手術術式決定のための深達度診断を行います。

PET-CT colonography

CT(Computed Tomography)検査は体を非常に薄いスライスで連続して撮影する検査で、大腸がんの進行の程度や転移の有無を調べるために行われます。撮像時に血管内に造影剤を注入することにより、がんの位置・周囲臓器へのがんの浸潤がないか・離れた臓器に転移がないかなどの多くの情報が得られます。さらに、体の中で個人差がある複雑な血管の走行を患者さん毎に確認できる利点もあります。腹腔鏡下手術の普及に伴い、外科医師は手術中に患者さんの臓器に直接触ることなく、確実に・安全にがんを摘出することが求められます。手術前にCT検査でがんの進行の程度・重要な血管の走行を把握することで、不要な出血を減らして確実にがんを切除する助けになります。また、肛門から大腸の中に空気を入れて撮影を行い、各スライスに映った大腸を抜き出してすべてのスライスを連続させることで大腸の形を再構成することができます(CT colonography)。

 PET(Positron Emission Tomography)検査は、がん細胞がブドウ糖を多量に細胞に取り込む性質を利用した検査で、FDG(Fluorodeoxyglucose)というブドウ糖によく似た物質を投与して、体のどの部分にFDGが取り込まれるかを画像化する検査です。この検査では、全身を一度に調べることができるため、がんの原発巣の描出だけでなく、リンパ節転移・遠隔転移の有無など全身の検索を行うことができます。

 当科では、CT検査とPET検査を同時に同位置で行うことで、お互いの長所を合わせた精度の高いがんの診断に役立てています。また、PET/CT検査は治療前の臨床病期の診断だけでなく、化学療法や放射線療法などがん治療に対する効果判定や、局所再発診断、予後予測にも応用しています。

 当科では全ての大腸がん患者さんに対して手術前にPET検査とCT colonography を合わせたPET-CT colonographyを行っています。PET-CT colonographyでは、がん・大腸をはじめとした各臓器・血管・リンパ節などを自由に全スライスから抜き出してきて重ね合わせることができるので、がんの位置や拡がりはもちろん、他の臓器との位置関係なども含めて患者さんの体を立体的に再現することができる非常に有用な検査です。

MRI

MRI検査も体をスライスした画像が得られる検査ですが、CT検査に比べてがんの周囲組織への進展の程度を調べたり、肝臓への転移の有無を調べることに関して威力を発揮します。特に肛門に近い部位にある直腸がんでは、がんの深達度・周囲の臓器への進展の程度によって治療方針が変わってくるので、MRI検査による評価が重要となります。

早期大腸癌の治療

大腸がんは進行するに従って大腸の壁を深く浸潤していきます。早期癌と進行癌の区別は浸潤の深さが粘膜下層を超えているかどうかで判断し、粘膜下層までに留まるがんを『早期大腸癌』といいます。早期大腸癌の中でも浸潤の深さが粘膜上皮内に留まるものがM癌(Tis)、粘膜下層まで浸潤しているものがSM癌(T1)と分類されます(図1)。

 

早期大腸癌の治療方法は、原発巣のみを摘出する『内視鏡的切除』と、原発巣と転移再発の可能性がある所属リンパ節を一括して腸管を切除する『外科的切除』の2種類があります(図2)。

 

M癌はリンパ節に転移することがないため、内視鏡的切除による原発巣の摘出のみで治癒が可能です。SM癌は浸潤の深さから軽度浸潤癌(T1a)と高度浸潤癌(T1b)に分類されますが、軽度浸潤癌ではリンパ節転移を伴う可能性が低く、内視鏡的切除によって治癒が期待できます。高度浸潤癌では12.5%の症例でリンパ節転移を伴うため外科的切除が推奨されます(図3)。

 

節転移の有無は、がんの浸潤の深さだけではなく、がんの組織型など他の因子からも予測できることがわかっています。しかしながら、現在のところ治療前にリンパ節転移の有無を正確に診断できる方法はないため、様々な因子を検討して慎重に治療方法を決定しています。内視鏡的切除によって原発巣を摘出した後に、病理検査でリンパ節転移を伴う可能性が高い所見を認めると、外科的切除による追加治療を勧める場合もあります。 

内視鏡的切除

適応はリンパ節転移の可能性がほとんどなく、原発巣が一括切除できる大きさと部位にあることです。

まとめると以下のようになります。

① 粘膜内癌および粘膜下層軽度浸潤癌

② 大きさは問わない。

③ 腫瘍の型は問わない。

つまり内視鏡の操作が困難でない部位で深達度が高度浸潤癌(T1b)まで到達していない癌は内視鏡切除が可能ということになります。

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次に内視鏡的切除の治療法についてです。

治療法はポリペクトミー、内視鏡的粘膜切除術(EMR)、内視鏡粘膜下層剥離術(ESD)に大別されます。

まず腫瘍の型が隆起性であるものは病巣茎部にスネアをかけて焼灼切除するポリペクトミーが可能になります(図3)。そうでない表面型の腫瘍や大きな無茎性病変の場合は粘膜下層に生理食塩水などを注射して病巣を挙上させポリペクトミーの手技により切除する方法がEMR(図4)、EMRで一括切除できない大きな病変や早期癌に対して病変周囲、粘膜下層にヒアルロン酸ナトリウム溶液などを局注して病巣を挙上させ、専用のナイフで病変周辺の切開、粘膜下層の剥離を行い、腫瘍を一括切除する方法がESDとなります(図5)。

最終的にはこれらの方法で採取した病変の診断にて追加切除(外科的切除)を必要とするか判断します。

 


図3. ポリペクトミー(大腸癌治療ガイドライン2014年版より)

 


図4. EMR(大腸癌治療ガイドライン2014年度版より)

 


図5. ESD(大腸癌治療ガイドライン2014年度版より)

進行大腸がんの治療

大腸がんの治療には内視鏡治療,手術治療,化学療法(抗がん剤による治療),放射線治療などの方法があります。大腸がんと診断されたら,まずいろいろな手術前の検査によりがんの進行度(ステージ(病期))が決定され、その進行度に応じて選択されます(下図)。

リンパ節転移の可能性がある早期がんと進行がんには手術治療が行われます。手術では腸の切除だけでなく,リンパ節郭清も行います。リンパ節の郭清する範囲はステージによって異なってきます(下図)


(患者さんのための大腸癌治療ガイドライン2014年版改変)

 


(患者さんのための大腸癌治療ガイドライン2014年版改変)

 

 切除された組織は顕微鏡で検査されます。顕微鏡の検査による病理診断にて最終的な患者様のがんの進行度(ステージ)が決まります。その最終的なステージを基にして手術後の治療方針(抗がん剤が必要であるかなど)が決められます(下図)。

切除されたリンパ節にがんの転移が確認されるとステージⅢ以上の進行度となります。ステージⅢには再発予防のため補助化学療法が奨められます。

がんがすでに大腸から離れた場所(肝臓,肺,腹膜など)に転移しているとステージⅣに分類されます。大腸に存在するがんを原発巣,転移しているがんを転移巣といいます。

原発巣と転移巣の両方とも安全に取り切れる場合は,両方を手術で切除します。転移巣は取り切れないものの,原発巣が原因で貧血,穿孔(腸に穴が開くこと),腸閉塞などを起こす恐れがある場合は,原発巣だけを切除し,転移巣には化学療法や放射線治療を行います。原発巣と転移巣の両方とも手術で取りきれない場合は,手術は行わず,化学療法や放射線治療を選びます。化学療法や放射線治療の効果が少ない場合や,患者さんのからだが手術や化学療法・放射線治療には耐えられないほど弱っている場合には,症状を和らげる治療が優先されます(下図)。

術前化学療法

 術前化学療法は、術前検査において局所で非常に進行した大腸癌に対して、腫瘍を小さくし、切除率を上げ、肛門温存率や局所制御率,生存率などを改善するために行われることがあります。下図の通り、まず化学療法で腫瘍を小さくすることでがんを細胞レベルで消失させ、その時点で切除することで根こそぎ治すという戦略です。新しい抗がん剤の開発に伴い、それらを用いた術前化学療法の効果は期待されています。

 ただし、大腸癌の術前化学療法のエビデンスは確立されておらず、本邦では標準治療としては行われていません。その効果と安全性を明らかにするために、当院を含め、全国で臨床試験が行われています。

 また、欧米では一般的に進行した下部直腸癌に対する術前治療として放射線療法と併用され、術前化学放射線療法として行われています。ただし、日本では放射線治療を行うことのできる施設は限られており、術前化学放射線療法は標準治療とはされていません(一部の施設では行われています)。また、放射線療法は副作用として腸管障害、肛門機能障害、性排尿機能障害によってQOL(quality of life: 生活の質)を低下させる可能性もあり、それを上回る効果があるというのかはまだ分かっておらず、これについても全国で臨床試験が行われています。

術後補助化学療法

手術でがんを切除しても,一定の頻度で再発が起こります。術後補助化学療法は、再発を抑制する目的で術後に実施される全身化学療法です。主には治癒切除が行われたstageⅢ大腸癌(結腸癌・直腸癌)が適応となりますが、stageⅡ大腸癌でも再発リスクが高い場合はお勧めすることがあります (図1)。

 

治療法としては

5-FU+ロイコボリン (LV)(静脈内投与+内服薬)

ユーエフティー (UFT)・ユーゼル (LV)(内服薬)

ゼローダ (カペシタビン: Cape)(内服薬)

5-FU+オキサリプラチン (FOLFOX)(静脈内投与: 表1)

ゼローダ+オキサリプラチン (XELOX)(静脈内投与+内服薬: 表2)

があります。

 

静脈内投与を行うレジメンを選択した場合、副作用の有無の確認のため、原則として初回治療は入院で行います。2回目以降は外来での治療が可能となります (外来化学療法室で行います: 写真1)

代表的な化学療法であるFOLFOX、XELOXの投与の流れは下記のとおりになります。治療期間は原則6ヶ月です。


図1 補助化学療法開始のフローチャート

高リスク: 郭清リンパ節個数12個未満、T4症例、穿孔例、低分化癌・印環細胞癌、粘液癌症例など


写真 (1) 外来化学療法室

 

表1 (大腸癌治療ガイドライン2014年度版より抜粋)

 

表2 (大腸癌治療ガイドライン2014年度版より抜粋)

再発大腸癌に対する化学療法

 治療を開始する時点で、大腸から離れた遠隔部位(肝臓、肺、腹膜、リンパ節など)に転移がある場合は、StageIVに分類され、全身治療である化学療法が推奨されます。また、初回の手術でリンパ節を含めて病巣を完全に切除したとしても、一定の割合で癌が再発する可能性があります。大腸癌研究会によれば、大腸癌全体の再発率は約17%であると報告されています。再発形式には、局所再発・血行性再発・リンパ行性再発が挙げられ、再発する可能性のある遠隔臓器には、主に肝臓や肺などがあります。再発を来した大腸癌では、表1のように癌が再発した部位(再発巣)の個数やその再発巣が手術で切除可能かどうかを判断することで以後の治療方針が変わってきます。原則として、切除可能な再発巣は1臓器が主ですが、2臓器であっても切除可能であれば切除を行うこととしています。しかし、再発巣が手術で取りきれない場合には、全身治療である化学療法を行います。化学療法の主な目的は、癌が大きくなるのを遅らせたり、癌を小さくして、生存期間を延ばしたり、症状をコントロールすることです。

 具体的な治療内容を表2に示しますが、大腸癌の化学療法の基本となる薬は、5フルオロウラシル(5-FU:ファイブ・エフ・ユー)であり、多くはイリノテカン(CPT-11:シー・ピー・ティー・イレブン)やオキサリプラチンと組み合わせて使用されます。また最近では、がん細胞の持つ特異的な性質を分子レベルでとらえ、それを標的として効率よく作用するようにつくられた薬(分子標的薬)であるベバシズマブ(アバスチン®)、セツキシマブ(アービタックス®)、パニツムマブ(ベクティビックス®)、レゴラフェニブ(スチバーガ®)も登場し、単剤あるいは他の化学療法と組み合わせて治療を行っています。ただし、セツキシマブやパニツムマブといった分子標的薬はRAS遺伝子の変異の有無によって使用可能かどうかが決まるため、手術で摘出した原発巣の検体や大腸内視鏡による生検検体から遺伝子変異を調べる必要があります。

 上記のように、再発大腸癌に対する化学療法には様々な種類の薬剤がありますが、当科では先進癌薬物療法開発学グループと連携し、患者さんの全身状態や腫瘍の状態にあわせて適切に化学療法を組み合わせて治療を行っています。

 

表 1 再発大腸癌に対する治療方針 (大腸癌治療ガイドライン2014年度版より抜粋)

 

表 2 切除不能進行再発大腸癌に対する化学療法のアルゴリズム (大腸癌治療ガイドライン2014年度版より改変)

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